それでも何とか顔を上げたら、温かな緑の目が自分を見ていて。
「……ねえ、前にも思ったんだけど、君、なんでそんな綺麗な目でいられるのかな。二百年も辛くて。僕なんか、二十も生きてないのに、ぐちゃぐちゃだ」
「ぐちゃぐちゃよ、あたし。二百年分ね。でも、そうね……綺麗なことも、二百年分、見てきたかもね」
 シルフィスは小さく頷いた。しばらく唇を噛んで考えていたが、リシュナに向かって笑顔をつくった。
「君に手があれば、跪いてその手に口付けたい気分だ」
 リシュナは可笑しそうにくすくす笑った。厳かに、告げた。
「ほっぺにちゅーを許す」
「……ありがとうございます、レディ」
 テーブルに身を乗り出し、シルフィスはリシュナの髪をかき上げた。耳のそばに、心を込めて口付けた。
 そして、囁く。
「儀式はいつ?」
「今夜でも」
 階下で、ただいま、とナーザの元気な声がした。