「化膿止めだ。飲め。もう自分で飲めるな」
 手を伸ばしかけたが、ハルの言葉が引っ掛かった。
 もう自分で飲める、って……?
「……今までは自分で飲んでいなかった? じゃあ、どうやって飲んで……」
 ふと浮かんだ疑念が口に出た。
 返って来たのは鉛のような沈黙。小さな疑念はたちまちどす黒く膨れ上がって──。
「……今の質問は、取り消す」
「そうしろ。永遠にな」
 互いにそっぽを向いて低くやりとりし、シルフィスはコップの中身を飲みほした。
 嫌がらせのように、苦い。小瓶からコップに垂らした雫のひとつは、必要な薬ではなく強力な苦み成分だったのではないだろうか。
 しばらくふたりして黙っていた。
 変わらないな、とシルフィスは思う。嫌味や陰口でなく、自分に面と向かって悪たれるのはこの赤い髪の魔法使いだけだった。ヘタレとか、根性無しとか。
 でも、謀反人の子、は一度もなかった。背後からそう言われて黙り込む自分に、ヘタレが、と吐き捨てるのがハルだった。