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 目を開くと太い梁が見えた。梁には乾燥したハーブの束が幾つも吊るされている。
 ……いつかどこかで見た天井だ。
「気がついたのか」
 若い男の声がして、シルフィスはハッとそちらへ視線を向けた。
 赤い髪の黒衣の男が枕元に立って自分を見下ろしている。
 反射的に起き上がろうとしたのだが、その途端に全身が疼いて、シルフィスはベッドに体を埋める。
 じっとしているうちに痛みは少し薄らいだ。シルフィスは改めてベッドに肘をついた。男から目を離さずに、ゆっくりと上体を起こした。
 会うのは四年振りだが、少年時代の面影ははっきりと残っていたし、こんな鮮やかに赤い髪の持ち主は滅多にいない。
 ハルベルティ──十そこそこで窃盗団を率いて王都を騒がせていた、天才少年魔法使い。それを、マクリーンが懲らしめて弟子にした。……その現在の姿が、この男か。
 でも、なぜ、成長したハルが自分の前に?
 ここは、どこだ?
 僕は……?
 濁った水中から不意に顔を出したように記憶が鮮明になった。
 ──ネイロフ。雷帝。『黒白の書』。解呪……。
「ナーザはっ」
 シルフィスはベッドの上をハルベルティににじり寄った。また体が痛んだが、構っていられない。
「ナーザとリシュナは?」
「無事だ。エルラドに帰った」
 ほっとする。
 が。