黒い雲を打ち砕いたあの白い光。シルフィスは『黒白の書』を取り戻したに違いなかった。雷帝を倒したことも、シルフィスに早く知らせたかった。
 死体兵が並んでいた中庭の、実験室への入り口で馬を降りる。
 と、地下に下りる階段から、いきなり血塗れの女の首が飛び出してきた。
 王も魔法使いもぎょっとして足を止める。王は剣の柄に手をかけ、魔法使いはその王の前に一歩出て、防御の魔法を紡ぎ出そうと指をそろえて。
 だが。
「ナーザ!」
「リシュナ!」
 ナーザは両腕を伸ばし、泣き叫ぶように自分の名を呼んだリシュナを抱きとめた。
「リシュナ、何が……」
 リシュナの頬が血と涙でぐしゃぐしゃだ。
「シルフィスが……助けて、早く!」
 ナーザの顔が緊張する。
「どこ?」
「通路の奥よ。実験室につながる抜け道のある……」
 リシュナを胸に抱えて走り出す、ナーザ。
 王と魔法使いは互いに顔を見合わせた。が、すぐさまナーザを追う。
 魔法使いが、走りながら、手のひらでゆるりと球を描いてオレンジ色に光る球を宙に浮かべた。
 光球は彼らに付き従うように空中を移動して地下を照らす。
 狭い通路はふたつに分かれ、ナーザは迷わず右を選んだ。魔法使いの生み出したオレンジ色の光が通路に差して、そこに倒れた男の顔を照らし出す。
 最初に男の名を叫んだのは、王だった。悲鳴のように、
「ディアナム!」
 と。