「やった……」
 リシュナがかすれた声で言うのが聞こえた。声は、次には大きな歓声になった。
「やったわ、シルフィス。雷の音が聞こえなくなった!」
 シルフィスはのろのろとリシュナの声がする方に顔を向けた。
 雷鳴が聞こえない? よく分からない。頭ががんがんして。でも、じゃあ、もう立っていなくてもいいのかな……。
 そう思った途端、膝が挫け、シルフィスはその場に崩れ落ちた。
 シルフィス、と叫んでリシュナが顔のそばに飛んでくる。
 大丈夫、と唇を動かしたつもりだったが、声にならなかった。大丈夫、少し休めば……。
 このまま休んでいたら、血がすっかり流れ出てしまったりして───と、思った。
 それもいいかもしれない。『黒白の書』は取り戻した。母上も伯父上も亡くなった。あとは僕が死ねば、何もかもきれいさっぱりする。悲しむ者も、いないだろう。
「シルフィス!」
 リシュナの声がする。
 ああ、そうだ。リシュナをナーザのところに帰さなきゃ。……でも、起き上がるのがとても億劫だ。