クルカムがハザンに話している。
「レイシアの手前にトーラという町がある。そこで『歌うフクロウ』の魔法使いと落ち合う手筈を整えておく。『黒白の書』が関わっているなら、魔法を知る同行者が必要だろう。トーラの者なら、レイシア辺りの地理にも明るい」
「わかりました」
 きびきびと立ち上がるハザン。
 シルフィスも、よっこらしょ、と腰を上げた。クルカムが向けた視線に柔らかく笑む。
「もちろん、僕は大丈夫ですよ。魔法の知識もありますし」
 それに、外れを引いたようですし──というセリフは心の中だけにした。
 クルカムは頷いただけだ。魔法使いの同行云々は言いださない。『風の貴公子』シルフィスのもうひとつの異名を信頼してるのか……いや、クルカムも、こっちが外れと踏んでいるのだろう。
 やれやれ、だ。
 マスターの部屋を出て、階段を降り、通りに面した扉の前でハザンと別れた。
 来た道を戻りながら、空に向かって短く嘆息した。
 おかしいな。僕が当たりを引くよう、コインにこっそり呪いをかけたつもりだったんだが。──シルフィスは苦笑いしてフードを深くかぶる──そりゃ、エルラドの可能性が皆無なわけじゃないけれど。
 自分には、とことん魔法の才能がないようだ。