雷鳴が響いて、ナーザは空から窪地へと目をやった。障壁が、悲鳴を上げるように、光を受けて震えていた。
 三度目の魔法が失敗すると、王は腕組みを解いた。
「麓で待つ軍に進軍の合図を送り、合流する。飛び道具が届く距離になったら攻撃を開始する。ご先祖にできたことなら、私たちにもやれるはずだ」
「エディア……」
 王はふり向いた魔法使いに先を言わせなかった。
「おまえはここで魔法を続けろ。───頼むぞ」
 小さく笑んで、王はひらりと馬に跨る。従者ふたりとともに丘を駆け、起伏の陰に見えなくなった。
 場に、魔法使いとナーザが残った。
「くそっ。何だ、この雲は」
 王を見送った目を空に転じて、魔法使いが毒づいた。悔しさが滲む声だった。
「『黒白の書』の魔法だ」
 ナーザが言うと、魔法使いがナーザを見た。ナーザは魔法使いを見返す。
「雷帝に仕えた魔法使いの魔法だよ」
 激しい落雷の音がした。ナーザと魔法使いは同時に窪地を見た。
 雷を受けた魔法障壁が、陽炎のように揺らめき立って、ついに消失したところだった。