シルフィスが魔法使いを捕えて雲と闇を払ってくれる──そんなことを当てにする気は初めからなかった。当てにして戦っちゃだめなくらいは分かっていた。
 シルフィスを信じるのと甘えるのとは違う。
 ナーザは固く目を閉じた。
 やる。雷帝の進軍をくい止めるのは俺の役目だ。
 この空なら、いくらでも落雷を呼べる。
 ざわっ、と神経が昂る。
 開いた目を死体の群れに向ける。
 行け──と天に念じた、その念が、くにゃり、と曲げられたような奇妙な感覚が体を走った。
 同時に、雷が落ちた。狙った死体兵ではなく、死体兵と自分の中間地点に。
 何が起こったか把握する前に、感じた。自分に向けて雷を落とそうとする、意思のようなもの。
 今度はナーザの念がそれを押し返した。
 再び、何もない地面に天から白光が走る。
 そして、ナーザは、はっきりと理解した。
 雷を操るものが自分以外にもうひとりいた。
 死体の群れの中、一段高く騎乗する姿。
 甦った、雷帝が。