魔法使いは笑んでいた。笑顔で、優しく、シルフィスに語りかける。
「ともに来るがいい、ディアナム。私と、そこにいるメイジェイルと、おまえと、三人で王家に復讐しよう。そして、おまえはこの国の王となる。それがメイジェイルの望みであった」
 シルフィスはネイロフの手の先にあるものから目を逸らした。滾りそうな血を冷ますために数回深く呼吸する。
 そうして、喉から声を絞り出した。
「……僕は王になりたいと思ったことなんかない」
 ネイロフの笑みが、戸惑うように揺れた。
 シルフィスはネイロフにまっすぐに視線を向ける。
「僕は魔法使いになりたかった。王を助ける魔法使いに。でも、全然才能がなくて」
 一歩を魔法使いに踏み出すと、気圧されるようにネイロフは一歩下がった。その顔に困惑が広がる。
 今度は、シルフィスがネイロフに笑った。切なく、酷薄に。
「あんまり才能が無さ過ぎるせいか、どんな魔法も僕には無効になってしまうんです、伯父上──あれは母上ではない。僕のギルドの仲間だ」
 魔法使いの困惑は驚愕へと変わっていく。シルフィスはさらに一歩距離を詰める。
「聞いたことはありませんか、伯父上。『魔法使い殺し』と呼ばれるギルド戦士の噂を」
 ネイロフがシルフィスに向かって手のひらを突き出した。
 伯父が何をしようとしたのか、シルフィスにはわからない。自分には何も起こらないのだから。