抜け穴の中は真っ暗で、シルフィスは壁と前方を手探りしながら腹ばいになって進む。
 この抜け穴が実験室に通じていても、ネイロフがそこにいるとは限らない。まだリシュナの道案内が必要な可能性がある。
 けれど、
「ねえ、リシュナ」
 自分の手も見えない暗闇の中、シルフィスはリシュナに話しかける。
「もし、この先に魔法使いがいたら、君はここから出ないでいてくれるかな」
 しばらくして、答えが返った。
「……約束するわ。でも、もし、あんたが危なかったら……」
「そんな心配は要らない」
 刃物のような鋭さでシルフィスはリシュナの言葉を遮った。唇に薄い笑みを浮かべて。
「僕は『魔法使い殺し』だから」
 リシュナは黙りこんだ。黙るだけのものがシルフィスの声に滲んでいた。
 前方に伸ばした指に、固いものが触れた。手のひらが平面をなぞり、それが、壁をつくる石だと判る。
 そっと押し、動くことを確かめた。
 出口だ。
「着いたよ、リシュナ。僕が、出ておいで、と言うまで君はここにいる。いいね?」
 この大きさの石を落とせばどうしたって音が出る。要はスピードだ。シルフィスは一気に腕に力を込めた。石が落ちると同時に壁に手をかけて体を引き出し、床に一回転して立ち上がる。
 円い部屋の中央に、驚いたようにふり向くネイロフがいた。