「どうしたらいいかな、リシュナ」
 他に道はないのだろうか。
 シルフィスの問いかけに、リシュナが固く目を閉じた。シルフィスは黙って彼女が自身の二百年前の記憶を探るのを待つ。
 やがて、目を開けたリシュナは、ゆっくりと周囲の壁を見回した。その視線が一点で止まる。
 リシュナは、ふわり、と袋から浮かび上がり、右側の壁に寄ると、髪の先で低い位置を指し示した。
「この辺、この辺の石、触ってみて」
 シルフィスは地面に膝をつき、言われた通りの場所にそっと手を這わせた。
 三番目に触った石に、かすかに不安定な手応えがあった。押してみると、わずかに動く。
「引いて、シルフィス」
 石と石のわずかな隙間に指を入れ、力を込めた。石が、ず、と手前に引き出される。
 人がひとり、肘で這って通れるくらいの抜け穴が現れた。
「ホルドトの実験室に通じているはずよ。──途中で崩れていなければ、だけど」
 シルフィスはリシュナを見た。リシュナもシルフィスを見た。
 先に口を開いたのはリシュナだった。
「ここで待っていろ、なんて言うほど馬鹿じゃないわよね?」
「本当は言いたいんだけど」
 シルフィスは微笑した。
「僕のあとから自分でついて来れる? 君を袋に入れてここを潜るのは無理そうだ」
 満足そうな笑みがリシュナの顔に広がった。
「あたしが先に行ってもいいくらいよ」
 もちろん、シルフィスが先に入った。