それが彼らの鬨の声なのか、地の底を這いずるような低い声が起きた。
 死体兵らの前に、騎乗した男が進み出る。
 あのマントは雷帝だ。
 その横の黒いローブを着た人物は───遠目で顔など見えなくとも───ネイロフ以外にありえない。
 ネイロフが高く腕を上げ、東を指した。
 東は、王都のある方角だ。
 雷帝が死体兵の中に馬を進める。死体兵は雷帝が通り過ぎるそばから体の向きを変え、ぞろり、と歩き出す。
 まるで、雷帝を乗せた蠢く大きな黒い塊が、王都を目指して動き始めたようだった。
 ネイロフは雷帝と死体兵の進軍を見届けると、中庭に背を向けて、崩れた城の一角にすっと姿を消した。
 シルフィスの青い目は、ただぼう然とそれらの出来事を眺めていた。
 これが、伯父が四年をかけて為したことか。千の死体兵と、甦った雷帝。
 間に合わなかった。止められなかった。
「……俺が雷帝を止める」
 すぐそばで声がして、シルフィスはナーザを見た。それは、ネイロフに操られたギルド戦士たちを雷撃で葬ったあと、ナーザが初めて発した言葉だった。──俺が雷帝を止める。
 上空で雷が閃き、少年の横顔を白く照らした。風に乱れる金色の髪。ナーザは笑っていた。壊れそうな笑いだった。