「『黒白の書』のことなら、雷帝に仕えた魔法使いが残した魔法書だ。危険な魔法が多く、勇者に味方した良き魔法使いによって王家の書庫に封印されていた」 
 そこで一息つき、今度はクルカムが肩をすくめる。
「姫王の弟のことは……正確なことなど、本人以外知らんさ。明らかな事実を並べるなら、こうだ──先王が身罷り、エディア姫が王位を継いで一年後、王宮の書庫から『黒白の書』が消え、同時にディアナム王子も姿を消した。今から四年前のことだ」
「王家の書庫に出入りできる人間など限られている。王子が盗んで逃げたと、普通そう思いますよね」
 軽く喉を鳴らして、シルフィスは笑った。
「で、夢見の二つ目の夢が『黒白の書』を持つディアナム王子と雷帝なら、『ディアナム王子が古の魔法を使って雷帝を復活させようとしている』という筋書きが読めると思ったわけですね、王宮は」
 ハザンが顔をしかめていた。
「王子が雷帝を復活させる? 何のために? まさか、母が死んだことへの復讐か? 魔女が死んだのは自分の術を返されたためなのだろう? ディアナム王子は謀反人の子として処刑されるところを姫王に救われたのだから、姫王に恩こそあれ、恨む筋合いはないと思うのだが……いや、『黒白の書』を盗み出したのが本当に王子なら……」 
 ハザンはそこで考え込み、シルフィスは微笑んであとを引き取る。
「もし、ディアナム王子が王家に復讐するために『黒白の書』を盗み、雷帝を復活させようとしているなら、それは立派な逆恨みだね」
 それから、クルカムに視線を向ける。
「──でも、マスター、そのふたつの夢は、手掛かりにはならない」