シルフィスはもう一度手すりから広間を見下ろした。飛び下りたら死ぬ高さだ。
 手裏剣? ───いや、遠い。とっさに杖を投げようと構えかけたが。
 ナーザが手すりから思い切り上半身を乗り出した。一瞬、飛び下りてしまうのではと、思えた。そんな勢いだった。
 けれど、そうではなかった。突き出した両手の周りに放電が走り、雷球が出現する。
 輝く雷球が、魔法使いに向かって放たれた。
 やった───そう、シルフィスは思った、が。
 見えない柔らかなものが、空中で雷球を受け止めていた。球をかたちづくっていた眩い光はゆるりと解け、波紋となって水平に広がり……消滅した。
 その下で、魔法使いは何ごともなかったように儀式を続けている。
「魔法障壁……っ」
 袋から顔を出したリシュナが呻いた。
 攻撃を防がれたナーザが、だんっ、と両手を手すりに叩きつけた。くるりと踵を返してシルフィスの脇をすり抜ける。
「ナーザ!」
 呼びかけると、ナーザではなく、リシュナが叫び返してきた。
「ついてきて! 広間に行く他の道がある」
 シルフィスは唇を結び、ナーザの後を追う。