見つめる視線に気づいたように、男がゆっくりとふり向いて、シルフィスを見上げた。片方の目を手で押さえ、残った目を眇めて笑った。
「これは驚いた。我が愛しのディアナム王子か?」
 伯父上、と唇は動いたが、声は出なかった。
 四年のうちに褐色だった髪がすっかり白くなり、頬が削げ落ちていた。シルフィスを見上げる目だけがぎらぎらと強く光っている。
「大きくなった。『目』を潰したのはおまえか? ……まあ、いい。あと少しで終わる。そこで大人しく見ていなさい」
 ネイロフは石の台に向かって片手を上げた。その手で真っ直ぐ空を切る。横に、斜めに。
 暗く輝く逆さ五芒星が現れた。さらにネイロフの指先が黒い文字を空中に綴っていく。
 ぼう然とネイロフを見ていたシルフィスだったが、そこで頭を殴られたように我に返った。
 今まさに『雷帝』復活の儀式が行われているのだ。
 ──儀式を完成させてはならない。
 シルフィスは階段を駆け下りようとする。が、前を行くナーザが立ち止っていた。
「ナーザ」
 何をしている、と言いかけて、シルフィスも気づいた。
 ナーザの足を止めた先で、階段がなくなっている。階段があるべき場所を目で辿ると、かなり離れて続きがあった。
 つまり、階段の一部が落ちている。飛ぶには距離があり過ぎる。