シルフィスは突いてくる一撃を躱しざま杖を相手の肩に振り下ろす。
 骨の砕ける音がした。
 本当なら、転げまわるほどの痛みで戦闘不能になるはずだ。が、男は無事な片腕で落ちた剣を拾って振りかざす。
「……くっ」
 呻きに似た声がシルフィスの口から洩れた。
 背後から襲いかかった別の男の腹に突きを見舞う。それで意識を落とせるはずなのに、落ちない。二歩、三歩よろよろと後退しただけだ。前からは骨を砕かれた男が片腕をぶら下げて斬りつけてくる。
 やりきれなさが胸に広がった。
 男たちの体はみな血に染まっている。返り血と自分の血で。意識を失うことも許されず、死ぬまで戦うことを命令されて。
 振り下ろされた剣を杖で弾くと、シルフィスは一気に間合いを詰めた。腰の小刀を逆手に抜き、すれ違うようにして男の頸動脈を切り裂いた。背後で鮮血が噴き上がり、シルフィスは横から繰り出された槍を脇にはさんで相手の手を蹴り上げる。
 二合、三合、打ちあって、シルフィスは戦士の一団を抜け出し、距離を取った。
「シルフィスっ」
 上から声がした。リシュナが髪を広げて目玉の行く手を遮り、目玉が後ずさるように下降する。
 シルフィスは走り、目玉に手を伸ばした。茹でた卵のような感触が手のひらに当たる。
 躊躇も容赦もしなかった。指を折り、思い切り握力を込める。
 茹でた卵はぐちゃりと潰れた。指の間からぬめる何かが伝わる。
 ───術者の片目も潰れたはずだ。