「雷帝──実在したのですか?」
 困惑気味にハザンが問う。
「した。幾つか確かな記録が残っている。昔の話だから、尾ひれはついとるだろう。が、雷を操ったというのも本当らしい。おそらくは、雷撃の異能の持ち主だったのだろう、桁外れの力を持った、な」
「つまり、今回の仕事の依頼主は王宮? 雷帝復活を阻止しろ、と?」
 テーブルの上で長い指を組んだシルフィスに、クルカムは、ふん、と笑う。
「だな」
「随分と漠然とした話ですね」
 シルフィスは、素っ気なく肩をすくめた。
 クルカムの笑みが深くなる。
「だから、儂らに依頼が来たのさ。まあ、手掛かりがないではない。夢見の夢だけだが。──まず一晩目、夢見たちは雷帝が甦る夢を見た」
 骨に皮が貼りついた指を一本、クルカムは顔の前に立てた。
 続いて、もう一本。立てた指が二本になる。
「二晩目の夢──雷帝のそばに、黒い表紙に白い文字の記された書物を持つ男がいた」
 さっ、とシルフィスの顔色が変わった。クルカムはおもむろに頷く。
「そう。『黒白の書』ではないかと王宮は考えた。そして、男はディアナム王子ではないか、と」
「その、『黒白の書』という魔法書と姫王の弟について、噂はいくつか聞いたことがあるのですが、正確なところはどうなのですか?」
 クルカムに向かって口をはさんだのはハザン。