「君は充分戦力になる」
 そう続けて、思った──王の夢見が雷帝復活を予知したのはネイロフの仕組んだ罠だったのかもしれない。けれど、夢見のひとりがエルラドを夢に見たのは、夢見自身の能力だったんじゃないだろうか。
 ナーザは希望かもしれない。伝説の暴君と同じ力と、善良な心を持つ少年。
 シルフィスは、ナーザが肩に掛けた布袋に目をやった。リシュナの栗色の髪が覗いている。
 今さらだが、どこか安全な場所を見つけてリシュナを置いていくべきではないだろうか。
 ……本当に、今さら、だ。
 掛け紐を握り締めたナーザの手。ナーザにそれを離すつもりはないだろう。ここまで来たら、自分たちのそばがいちばん安全かもしれない。それに、文献によれば、確かに飛頭は滅多なことでは死なないのだ。
 問題は、それより、ここからどうするか。
 シルフィスは自分たちが上るべき丘の起伏を見渡す。
 そして、笑った。
 姿を消す魔法なんか使えない。策を弄する時間はない。
「行くよ、ナーザ」
 大きく一歩を踏み出す。
 雷帝の城の跡は、離れてみたときより黒々と、丘の上にそびえていた。