「私は血の匂いがするか?」
少し体を離して私の顔を見る鉄平の顔は、きっとこの世で私にしか見せない弱々しい表情で、私は思わずあふれた涙を慌てて拭った。
「温かな日だまりの匂いがします。大きな、大きな、あたたかなあたたかな。」
これは事実だ。嘘ではない。
まっすぐに鉄平の瞳を見つめながら言う私に、鉄平は柔らかく、優しく微笑む。

「ならばよかった。」
鉄平に促されて、寝台に座った私たち。
鉄平は私の手を握りながら、話始めた。

「人が死ぬことになれたらならないと、ずっと思いながら生きて来た。やむを得ず奪う命の分も、責任を背負い生きなければならないと思って来た。不用意に命を奪ってはならないと思いながら戦ってきた。」
いつもよりも小さく見える鉄平の姿ににくぎ付けになりながら私は話を聞いた。
「でも今回の戦場では、守ることで精一杯だった。自分の命を守ることに必死で、本当にこの命を奪わなければならなかったのかと、何度も何度も自問自答することがあった。」
どれだけ過酷な戦いだったのか、鉄平の話を聞くだけで伝わってくる。