「彼は会社のお金を横領しているんですよ。しかも、一度だけではなく何度も」

「嘘……」

我妻さんの言葉が一瞬理解できなかった。あんなに優しい彼が横領だなんて、信じられない。でも私が呆然としている間に、次々とその他の証拠が並べられている。

「被害総額は約一千万近くありますね。悪質ですし、悪質ですし起訴されれば間違いなく執行猶予なしの実刑判決になると思いますよ」

「そんな……」

彼に裏切られていたことがショックで、体が震えてしまう。するとその手を優しく我妻さんに握られた。

「そんな顔をしないでください。あなたが婚姻届にサインをしてくれれば、彼の横領のことは誰にも言いませんし、彼の罪を暴いたりしませんから」

その言葉に目を見開いてしまう。それは彼を救う唯一の方法だ。でも、それは自分の人生を我妻さんに渡すことになる。

「どうしますか?三葉さんが拒否をすれば彼の人生は間違いなく大きく狂ってしまいますよ?三葉さんのせいでね」