千葉先輩の去って行った方向を見つめたままそう呟く柳部長。

…え、私が全く予想していなかったこの展開を、部長は予想していたと?

「…ぶ、部長…?」

「…もうその呼び方止めて?誰もいないし。俺、小夏にはイチさんって呼ばれる方が好き」

好き…その形の良い唇から漏れたその言葉に、私の心臓は跳ね上がる。

…いやいや、好きって、呼ばれ方の話だから!私がとか、そういうんじゃないから!

危ない、危ないよ、この人は…

1人わたわたしている私に気付いているのか、いないのか…

「行くよ」

私の手を引いて歩き出す柳ぶちょ、じゃなくてイチさん。

手、を…

「…っ手…!」

ちら、と顔だけ振り返り、緩く口角を上げて笑うイチさん。

…ああ、もうこの人は。

私はやっぱりイチさんのこっちの笑顔の方が好きだ。
あの万人受けする、王子様みたいなキラキラの笑顔よりずっと。