いつもの倍は飲んじゃってるもんなー。
もうソフトドリンクにしよう。

そう思ってお化粧室を出ると、その前の壁にもたれて腕を組んでいるイチさんがいた。
もうそれだけで格好良いなんて、どんだけなの…

「イ、柳部長もお手洗いですか?」

危うくイチさんって呼びそうになってしまった。

「…顔、赤い」

柳部長は私の問いかけには答えず、そっと私の頬に手を伸ばす。

「…ちょっ!柳部長…!」

「大丈夫。誰もいない」

そして右の頬をそっと包まれた。

何だろう、柳部長の瞳の奥が揺れている気がする。まるで苦しい、そう言っているみたいな…

「柳部長は飲んで…ません、よね…?」

「…ああ」

じゃあ、どうしてそんな顔を…?

「…小夏、隙だらけ。そんな顔、誰にでも見せない方がいい」

そう言って私の頬を包んでいた手を名残惜しそうに離して、その手で私の鼻をぷにっと摘んでから化粧室へと入って行った。