「……」


 御屋形様しばし語り合った後。


 離れの有明姫のご機嫌伺いにも顔を出したところ、程なくして姫の様子がおかしなことに気が付いた。


 おそらく私の父の不愉快な発言に関して、姫の耳にも届いてしまっているのだろう。


 「先日お話しに出ていました、『平家物語』の関連作品についてなのですが、」


 「物語ばかりにうつつを抜かしていては、高政の将来にも差し障りがあるのではないか」


 私の発言を遮り、姫は庭園に降りて池に向かい、池の鯉に餌を撒き始めた。


 「もうここには来ぬ方がいい。斎藤家の嫡男としてやるべきことは、まだまだあるのでは?」


 姫の口調は投げやりだった。


 「はい、斎藤家の嫡男としてやるべきことは、まだまだたくさんあります。今のところ最優先なのは、美濃を以前から治めておられる土岐家の御屋形様と、友好関係を築くこと」


 「父と?」


 「そして……、土岐家と斎藤家が手を取り合ってこの美濃を治めていくためには、この両家が婚姻関係を結ぶのが最適かと思います。それゆえ私は、姫を妻に迎えたいと考えています」


 「高政……」


 「姫、私の妻になってください」


 今まで夢で描いてはきたものの、到底口にはできないとあきらめかけていた想いだったが、案外すんなりと言葉にすることができた。