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 「土岐家は美濃守護とは言っても、すでに名ばかりの存在。やはり利政は主君の家柄とはいえ、勢力拡張に役立たぬ縁組はよしとしないのであろう」


 初夏はちょうど梅雨の季節で、雨降りな日々の合間に私は土岐家に出向き、直接御屋形様に有明姫との将来について打ち明けた。


 御屋形様は姫にとってこの上ない幸せだと喜んではくれたものの、父の意向を覆すのはなかなか困難とあきらめている感じだった。


 すでにこれまでにも幾度となく姫のことは父にほのめかして来てはいたが、その都度無視されたりはぐらかされたりということが続き、そのままになっていたというのもある。


 「利政は、考えを改めぬであろうな」


 御屋形様はため息をついた。


 「私に、考えがあります!」


 「申してみよ」


 「いずれ私は、斎藤家の家督を継ぎます。家督を継いで斎藤家の当主となれば、自らの意思で妻を選ぶことができるようになります!」


 「確かに……。だがあの利政のことだ。当分はくたばるまい。となると待っている間に私はこの世を去り、姫は白髪の老婆になっているかもしれぬぞ」


 「たとえそうなっても、私は待ちます」


 「待っている間に、そなたは違う女に心が移ることもあるのではないか?」


 「ないと思います。いや……。あり得ません」


 もう私は、姫との将来しか考えていなかった。