父の言うことには納得いかなかったが、家督のことを持ち出されると、執拗に抵抗するのは得策ではないと考え、その場を退いた。


 次に、叔父の稲葉良通に相談した。


 母の弟で、美濃の名門の当主である稲葉は母亡き後、幼い私の面倒をずっと見てきてくれた。


 十五歳年上の叔父はまさに私の父代わり、兄代わりと言ってもいい存在で、いつも私の味方をしてくれた。


 だから今回の有明姫の件も、一族総出で協力してくれるかと思いきや……。


 「若殿、申し訳ありませんが土岐家の姫のこと、お諦めになるのが得策かと存じます」


 「稲葉?」


 まさか稲葉にまで反対されるとは、想定外だった。


 「聞くところによりますと、土岐の姫は若殿より年上と聞きます。そうなりますと御子をお産みになるには、いささか年を取り過ぎているような気がします」


 「なぜそんなこと。三十だろうと四十だろうと、子を産もうと思えば埋めるものを」


 年齢なんてどうでもいいのに。


 その後有明姫の育ちの良さと気品の高さをいくら稲葉に説明しても、稲葉は逃げるようにその場を立ち去ってしまった。


 稲葉はいつも私の味方をしてくれると思っていたのに、残念だった。