春の訪れとともに日は長くなり、日没も徐々に遅くなっていくが、暗くなる前に私は土岐の屋敷を出た。


 あまり遅くなるといらぬ詮索を招くし、父にも勘付かれるかもしれない。


 完全に暗くなってしまう前に、稲葉山城に戻っておきたかった。


 (私も京の都を見てみたい)


 屋敷の奥で遠い世界を夢見ることしかできなかった姫を、外の世界に連れ出せるのは私しかいないと思った。


 私が姫を、京の都へ……。


 いつ叶えられるか予想もつかないが、その日を夢見て頑張っていけるような気がした。


 美濃守護代斎藤家嫡男という重責や、父の冷たい仕打ちに耐え抜いたら、行く末は明るいものだと。


 そんな中で私にとって有明姫の存在は、欠くことのできないものとなりつつあった。


 できれば生涯を共にしたいとさえ考え始めるように……。