「お恥ずかしながら」


 祖父の代から京で地盤を固めた父は、やがて土岐家の家臣の信頼を得るに至り、そのツテで土岐家に仕え始めた。


 ちょうどその当時、土岐家は家督相続争いの真っ最中で、今の御屋形様の地位確立にあたり大きな貢献を果たしたとかで、父は御屋形様の側近として引き立てられたのだ。


 後に信頼の証として、自らの側室を与えられるほどに……。


 その側室はもちろん亡き母のことで、そこから生まれたのが私だった。


 ただこれほどの出世を遂げる過程において、父はかなり強引な手段を取ってきたため、当然敵は多かった。


 父に敗れた者たちは当然父を恨み、妬み、父は「マムシ」というあだ名まで頂戴する羽目に。


 「成功するためには、それだけ犠牲も大きくなることは避けられないかもしれませんが、私は父のようにはしたくないですね。できればみんな仲良く、平和に暮らしていける世の中を望みます」


 「でも、高政がそう望んでも、周囲の国は領地を広げるために日々戦を繰り返しておる。高政もいずれ家督を継いだら、嫌でも争いに巻き込まれていくのでは?」


 「それを防ぐには、この美濃の国を安定させる必要があります。そのためにも家督を継いだらまずは上洛し、公方様(第13代将軍・足利義輝)に認めていただく予定です」


 「……将軍家は今や権威は低下し、その部下どもが京を舞台に争いを繰り返していると聞くが」


 「そうはいっても、武家の棟梁としての将軍家の威光に勝るものはありません。各国の支配者が上洛し、公方様の元に集い、公方様をお支えして、公方様を中心とした国の体制を整えるのです。そして各国の武将はそれぞれの領地をよく治め、豊かにして、その財力をもって将軍家をお支えすれば、この国全体は将軍家の元に一致団結し、よりよい政治を行なうことができます」


 私は延々と自分の理想論を姫に述べていた。