「姫自身も、無理してつまらぬ相手に嫁ぐくらいなら、今のままここで過ごしたいと考えているようだ。私もこれまであまり面倒を見てやれなかった分、姫の好きなようにさせてやりたいとは願っているのだが、私もいつまでも生きていられるとは限らぬ。それゆえ姫の行く末が心配なのだが……」


 話をまとめると、御屋形様の一番上の姫は幼少期を御屋形様と離れて過ごすことが多く、寺にて養育され、教養の高い姫となった。


 適齢期を迎えても、紛争に明け暮れた御屋形様はこの地に留まることは少なく、姫は条件の良い縁談を逃しているうちに時が流れ、今に至る。


 姫自身も今さら、我慢して身分の低い者や、教養の無いつまらない相手の元に嫁ぐくらいなら、ここで過ごしたいと願っている。


 御屋形様が心配されるように、今は御屋形様の庇護の下、土岐家の姫として相応しい生活が保証されるかもしれないが。


 御屋形様に先立たれたらもはや頼るべき身内もおらず、天涯孤独でこの地に放り出されるかもしれない。


 「そうだ高政。頼みがあるのだが」


 「どのようなことでしょうか」


 「よければ姫の、話し相手になってはくれぬか」


 「えっ、有明様のですか」


 突然の御屋形様の申し出に驚いた。


 「そなたほどの学識の高さならば、あの姫とも話が合うと思う。いきなりだと気後れするだろうから、まずは文でも送り合ってみてはいかがか」


 「文をですか……。私でよろしければ」


 御屋形様たっての願いということもあり。


 その日から私は有明様の文通相手ということになっていた。