母が御屋形様の側室になる前に生まれた姫ということは、私より何歳か年上ということになる。


 妙齢の姫君が、なぜ館の奥深くにひっそりと?


 「失礼ですが有明様は、どこにも嫁がれていないのですか?」


 いきなり不躾な質問だとは思ったが、気になって仕方なく、単刀直入なものとなってしまった。


 代々美濃国守護を務める名門土岐家の長女ならば、引く手あまただと思われる。


 なのになぜこうして未だに……。


 「つい最近まで私は、土岐家内部での勢力抗争や、そなたの父との対立などに明け暮れ、この館を追われることも多々あった。その間姫は、馴染みの寺に預けるなどをして無事に成長したのだが、立場の安定しない日々の中、姫の嫁ぎ先に気を配ってやる余裕もなく……」


 父と和睦を結び、御屋形様がここに定着されたのはそんな昔ではない。


 「それに婚姻とは、家同士の結びつき。そこには多少なりとも打算も含まれるであろう? つまりはお互いに利用価値のある相手にしたいと願うのは、当然の流れだ」


 「ですが土岐家の姫君を迎えることができましたら、どこの武家にとっても大変ありがたいことであると思います」


 「実は以前、そなたの父にも話を持ち掛けたことがあったが、遠回しに断られた。すでに実権の無い土岐家の姫をそなたに嫁がせても、あまり利点はないと踏んだのだろう」


 そんなことがあったとは知らなかった。


 せっかくのいい話だったのに、父が勝手に握り潰したのだ。


 確かにあの父のやりそうなことだ。


 権勢の衰えた土岐家の姫よりも、近隣諸国の武家の姫を迎えて政治的利用したほうが、得るものが多いと読んだのだろう。


 計算高い父ならば当然、そう考えたに決まっている。