「授業中なのにどうしたの?」


「それは…」


「濡れてるの?」


服部先生が駆け寄ってくる。


「髪も制服も濡れてるじゃない!」


「あのっ」


私は、心配そうにハンカチで拭いてくれる先生を見つめた。


先生は20代後半で、婚約しているらしい。


生徒たちに人気があって、いつも明るい笑顔で接してくれる。


まだ3年生になったばかりで、初めて受け持ってもらった。


もしかしたら──?


そんな思いが私の頭をよぎる。


もしかしたら、この人はこれまでの先生とは違うかもしれない。


見て見ぬ振りをしてきた、今までの担任とは。


「なにか困ってることがあれば、先生に言いなさい」


「先生…」


「私はあなたの味方よ」


優しく肩を叩かれ、それを合図に目から涙がこぼれる。


味方なんていなかった。


カースト底辺に手を差し伸べてくれるひとなんて。


「あの、先生…」


「ん?」


「私、いじめられてるんです」


大きな塊を吐き出した。


「城田さんたちに、いじめられてるんです!」


そう告白すると、先生は柔らかく微笑んだ。


「そうだと思ったわ。でもね──」