息を呑む音。

 次いで怒鳴ろうとしているのか息を吸う音がする。

 それが分かっていたけれどあたしは気にせず杉沢さんの頬にチークをのせようとした。

 でもその前に、目の前の唇が動く。


「黙ってろって。邪魔すんじゃねぇ」

 低い声に、お兄さんがまた息を呑んだ。


 お兄さんを鋭く睨んだその目が、真っ直ぐにあたしを見る。

 その目に映った感情に気付かないまま、あたしは今度こそチークを乗せて最後の仕上げをした。



 全ての工程を終え、微調整しながらチェックする。

 これで良い。と思ったら、自然と笑みが零れた。


「出来ました。どうですか?」

 そう言って鏡をさしだしたけれど、杉沢さんは目を見開いて固まっている。

「あの……?」

 困って顔を覗き込むと、やっとハッとして鏡を受け取ってくれた。