「んー、あのときのメイク――ああ、アイツがナンパしたときな。あのメイクは自分でやったの?」

「……はい、そうですけど……」

 何で今それを聞くのか分からなかったけれど、取り合えず答える。

 すると杉沢さんは「ふーん」と少し考えてからニッコリと胡散臭い笑顔になった。


「じゃあ、俺にメイクしてみろよ」

「は?」

 呆けるあたしの顎を離し、彼はもう一度言う。


「最近自分でやってみてるんだけど、人がやったメイクってのも見てみたいじゃん? 道具は一通り置いてあるし、今顔洗ってくるから」

「……メイク……」

 本当にメイクをしてみて欲しいらしい。

 思いがけず男性メイクが出来そうな状況に、あたしは場違いにも少しワクワクしてしまう。


 陸斗くんに一度やってみただけだったからなぁ……。

 いやいや、でもそんな事してる場合じゃないんじゃないの?


 そんな葛藤を繰り返す。