「……」

 彼女、じゃないんだけどな。


「はい! 恋人つなぎで手ぇつないでたから間違いないっしょ!」

 怒られたばかりなのに元気に答えるお兄さん。

 本当にバカなのかもしれない。


「ふーん。あいつこんな地味な子が好みだったのか?」

 杉沢さんはそう言って検分するようにあたしを見ながら近付いて来る。

 意識があたしに向けられて、緊張してしまう。

 でもお兄さんに怒ったくらいだから、変なことはされないよね……?


 そんな希望を抱いていたけれど、途中で杉沢さんは何かに気付いたように一瞬足を止め、すぐに素早くあたしに近寄った。


 え?


 驚きと共に、勢いについ後退る。

 でも、杉沢さんはお構いなしにあたしの顎を掴んで上向かせた。

 そしてもう片方の手でメガネを取られる。


 じっくりとあたしの素顔を見た彼は、「へぇ」と目を細めニィっと笑う。