真剣にメイクをする倉木。

 こんな美人で、カッコイイ女が俺を見ている。

 俺だけを見ている。


 その事実にゾクゾクしてきたと思ったら、終わったようでゆっくり息を吐き出した。


 そして口端が上がり、目元が(ゆる)められる。

 ふわりと笑ったその口から「うん、完成」と満足気な声が発せられた。



 ハッキリ分かった。

 その瞬間、俺は落とされたんだって。

 恋とか言う落とし穴に。


 その後感想を聞かれたので思ったことを言うと、良かったと言ってニコニコと笑った倉木。

 そんな彼女の姿を自然に可愛いと思ってしまった。

 思ってしまったことに自分でも驚いて、つい避けるような真似をしてしまったけど……。


 誤魔化すためにも話題を()らして、家から出るようにした。

 このまま二人きりだと何かヤバイ気がしたから。