美人グルト 通称Cのはなし
あだ名はキュートと呼ばれている女子、仮名をCとしておこう。彼女はブスな顔だ。この顔のせいで、不幸な人生だったと思う。人生といっても、12年程度の人生だけれど。小学校6年生のCは、顔がきれいではないので、男子にも女子にも好かれていないと思う。性格も暗いけれど、顔立ちも不幸顔と言われていて、しょっちゅういじめられるし、男子に好きだと言われたこともない。好きな人ができても、好きになってはもらえないのかもしれない。Cは自分に自信がなかった。
女子同士でも美人だとうらやましがられたりすることもあるが、同性からの称賛は一度もない。Cの学力や運動神経などの能力が低いが故の問題かもしれないが、自分の外見に自信がないことはとても大きい事実だ。どこが特に気になるかって? 釣りあがった細い目、への字の口、低い鼻、太った体。痩せたとしても美人にはならない顔立ちだ。この体格だと、デブと言われるので、一応、少しダイエットはしているが、美人になるわけではない。だから、Cは強いコンプレックスを抱えながら、都市伝説の情報ををインターネットで探していた。うわさに聞く、便利な商品を扱っているという夕陽屋の情報を探していたのだ。
『たそがれどきに思いを込めてください。すると、お店に出会えます』
本当だろうか? もうすぐたそがれどきだ。そう思ったCは急いで外に出た。そして、美しくなりたいと強くねがう。光がCに差し込んだと思ったら、まばゆい光に包まれる。不思議な感覚だった。
そして、すぐに夕陽屋と書かれた古びたお店が現れた。勇気を出して店の中に入ってみる。これで、美人になれると思うと思わずスキップしたくなってしまった。
店員は高校生くらいの男子のように見えたが、Cが知っている同世代よりもどことなく大人びた印象だった。Cから見た夕陽の眼はくりっと大きくてまつげが長く、鼻がすっと高く、口角が上がっていて、小顔。夕陽はCの基準では理想の顔立ちだった。そして、室内に飾られた縁日風のインテリアも嫌いじゃなかった。
「いらっしゃい」
「この店には美人になるお菓子ってないの?」
「ないこともないけどね。どんな顔になりたいんだ?」
「あなたみたいにスタイルが良く整った顔立ちがいいの」
「でも、人には好みもあるし、全員が美人だと思う顔は難しいぞ」
「じゃあ、あなたと同じ顔でいいわ、私、あなたの顔が気に入ったもの。でも、顔が急に変わったらみんな私だとわからないよね」
「君だとわかるように美人にできるよ。もちろん顔が変わったことは気づかないようにしてやるさ。そして、見る人の好みにあった顔に見えるようにするのさ」
その話を聞き、Cは目を輝かせていた。
「すごい魔法ね。大きな二重の目がいいの」
「じゃあ、この美人グルトを食べてみな」
「いくら?」
「10円だよ」
その場でふたをあけて食べてみる。その小さなグルトはヨーグルトのような酸味があるがとても甘いお菓子だ。小さな木のスプーンですくって食べる。店内にあるベンチは雨風にさらされたような古びた木でできていた。きっと昔からあるに違いない。
「さあ、帰宅して鏡を見てみな」
「ごちそうさま」
帰宅したCが鏡を見ると、思い通りのきれいな顔になっていた。もちろん体型もウエストにくびれがある痩せた体になっていた。不思議なことに、親もクラスメイトもみんなCだとわかっているようだ。何も言ってこない。もしかして、前と同じ顔にしか見えないのかな? 少し不安になる。
「あなた夕陽屋の店員なの? 親戚?」
それから少し経ったころ、まちを歩いていた時に、知らない女性に声をかけられた。その女性はすごい剣幕でまくしたてた。
「ずっとお店を探していたんだけれど、見つからなくて。私の人生を返して!!」
恐ろしい形相で言われた。Cはとても怖くなり「違います」と言って逃げた。あの美しい少年は恨みをかったり、ひどいことを言われているのかもしれない。
それから、たびたび街中を歩いていると知らない人に、「もしかして、初恋の○○さん?」と言われることがあって、正直怖い思いを何度かしている。こんな人違いが一生続くのだろうか? 人によって美しいの基準は様々なので、人によって見える顔は違うようだった。
「似ているだけで別人です」
Cが別人だと言うと、諦めた顔で力なく歩いていく人たちが多いけれど、もし、ストーカーのようなうらみを持った人が現れたらどうしよう。
Cはずっと恐怖を持って毎日を過ごしている。自信があるはずの顔を隠しながらまちなかを歩いているのだ。きっと、これは代償なのかもしれない。
鏡を見ると、ある日はのっぺらぼうになっている。それはCの中で美人の基準が無になっているということかもしれない。目も鼻も口もないなんて……。恐ろしくなってもう一度鏡を見ると別な顔になっていた。どうやら見る人や見るときによって顔だちが変わるということだ。だから、見る人の美の基準に日々合わせてくれるのだろう。
Cの顔があの少年のように見える人もいるし、初恋の人に見えることもあるようだ。つまり見る人によって見えるものが違う。つまり今のCの本当の顔はないということだ。本当のキュートはもういない。だからあえてこの話ではCという表記をさせてもらった。本当の顔がない者は本当の名前もなくなってしまうのだから……。
ねがいごとには代償がつきもの。犠牲になるものがあるということを覚悟する勇気が必要なのかもしれない。
あれから20年、Cは結婚して、子供ができた。自分に自信がないゆえ、息子が生まれたのに、元々の顔が自分と似ている息子を愛することができなくなっていた。その息子のアキラは最近、夕陽屋でおたすけノベルを購入したらしい。昔も今も夕陽屋の黄昏夕陽は変わらずに店をつづけているということだ。
あだ名はキュートと呼ばれている女子、仮名をCとしておこう。彼女はブスな顔だ。この顔のせいで、不幸な人生だったと思う。人生といっても、12年程度の人生だけれど。小学校6年生のCは、顔がきれいではないので、男子にも女子にも好かれていないと思う。性格も暗いけれど、顔立ちも不幸顔と言われていて、しょっちゅういじめられるし、男子に好きだと言われたこともない。好きな人ができても、好きになってはもらえないのかもしれない。Cは自分に自信がなかった。
女子同士でも美人だとうらやましがられたりすることもあるが、同性からの称賛は一度もない。Cの学力や運動神経などの能力が低いが故の問題かもしれないが、自分の外見に自信がないことはとても大きい事実だ。どこが特に気になるかって? 釣りあがった細い目、への字の口、低い鼻、太った体。痩せたとしても美人にはならない顔立ちだ。この体格だと、デブと言われるので、一応、少しダイエットはしているが、美人になるわけではない。だから、Cは強いコンプレックスを抱えながら、都市伝説の情報ををインターネットで探していた。うわさに聞く、便利な商品を扱っているという夕陽屋の情報を探していたのだ。
『たそがれどきに思いを込めてください。すると、お店に出会えます』
本当だろうか? もうすぐたそがれどきだ。そう思ったCは急いで外に出た。そして、美しくなりたいと強くねがう。光がCに差し込んだと思ったら、まばゆい光に包まれる。不思議な感覚だった。
そして、すぐに夕陽屋と書かれた古びたお店が現れた。勇気を出して店の中に入ってみる。これで、美人になれると思うと思わずスキップしたくなってしまった。
店員は高校生くらいの男子のように見えたが、Cが知っている同世代よりもどことなく大人びた印象だった。Cから見た夕陽の眼はくりっと大きくてまつげが長く、鼻がすっと高く、口角が上がっていて、小顔。夕陽はCの基準では理想の顔立ちだった。そして、室内に飾られた縁日風のインテリアも嫌いじゃなかった。
「いらっしゃい」
「この店には美人になるお菓子ってないの?」
「ないこともないけどね。どんな顔になりたいんだ?」
「あなたみたいにスタイルが良く整った顔立ちがいいの」
「でも、人には好みもあるし、全員が美人だと思う顔は難しいぞ」
「じゃあ、あなたと同じ顔でいいわ、私、あなたの顔が気に入ったもの。でも、顔が急に変わったらみんな私だとわからないよね」
「君だとわかるように美人にできるよ。もちろん顔が変わったことは気づかないようにしてやるさ。そして、見る人の好みにあった顔に見えるようにするのさ」
その話を聞き、Cは目を輝かせていた。
「すごい魔法ね。大きな二重の目がいいの」
「じゃあ、この美人グルトを食べてみな」
「いくら?」
「10円だよ」
その場でふたをあけて食べてみる。その小さなグルトはヨーグルトのような酸味があるがとても甘いお菓子だ。小さな木のスプーンですくって食べる。店内にあるベンチは雨風にさらされたような古びた木でできていた。きっと昔からあるに違いない。
「さあ、帰宅して鏡を見てみな」
「ごちそうさま」
帰宅したCが鏡を見ると、思い通りのきれいな顔になっていた。もちろん体型もウエストにくびれがある痩せた体になっていた。不思議なことに、親もクラスメイトもみんなCだとわかっているようだ。何も言ってこない。もしかして、前と同じ顔にしか見えないのかな? 少し不安になる。
「あなた夕陽屋の店員なの? 親戚?」
それから少し経ったころ、まちを歩いていた時に、知らない女性に声をかけられた。その女性はすごい剣幕でまくしたてた。
「ずっとお店を探していたんだけれど、見つからなくて。私の人生を返して!!」
恐ろしい形相で言われた。Cはとても怖くなり「違います」と言って逃げた。あの美しい少年は恨みをかったり、ひどいことを言われているのかもしれない。
それから、たびたび街中を歩いていると知らない人に、「もしかして、初恋の○○さん?」と言われることがあって、正直怖い思いを何度かしている。こんな人違いが一生続くのだろうか? 人によって美しいの基準は様々なので、人によって見える顔は違うようだった。
「似ているだけで別人です」
Cが別人だと言うと、諦めた顔で力なく歩いていく人たちが多いけれど、もし、ストーカーのようなうらみを持った人が現れたらどうしよう。
Cはずっと恐怖を持って毎日を過ごしている。自信があるはずの顔を隠しながらまちなかを歩いているのだ。きっと、これは代償なのかもしれない。
鏡を見ると、ある日はのっぺらぼうになっている。それはCの中で美人の基準が無になっているということかもしれない。目も鼻も口もないなんて……。恐ろしくなってもう一度鏡を見ると別な顔になっていた。どうやら見る人や見るときによって顔だちが変わるということだ。だから、見る人の美の基準に日々合わせてくれるのだろう。
Cの顔があの少年のように見える人もいるし、初恋の人に見えることもあるようだ。つまり見る人によって見えるものが違う。つまり今のCの本当の顔はないということだ。本当のキュートはもういない。だからあえてこの話ではCという表記をさせてもらった。本当の顔がない者は本当の名前もなくなってしまうのだから……。
ねがいごとには代償がつきもの。犠牲になるものがあるということを覚悟する勇気が必要なのかもしれない。
あれから20年、Cは結婚して、子供ができた。自分に自信がないゆえ、息子が生まれたのに、元々の顔が自分と似ている息子を愛することができなくなっていた。その息子のアキラは最近、夕陽屋でおたすけノベルを購入したらしい。昔も今も夕陽屋の黄昏夕陽は変わらずに店をつづけているということだ。