「ただいま、希。」
お父さんが帰ってきた。
「おかえり。」
「こんな時間まで起きていてどうしたの?」
私は迷った。お父さんは仕事で忙しいのに、
我儘言ってこれ以上負担をかけたくない。一人で私の面倒を見てくれるお父さんの邪魔になりたくない。でも、お父さんもお母さんもいない家は寂しかった。独りで過ごすには広すぎる家で、お母さんのことを思い出して毎日虚しかった。もう、独りは耐えられない。
「…私、お父さんの焼きそばが食べたい。」
お父さんは何か察したのか
「希、ごめんね。お父さんは希に寂しい思いさせてたよな。」
と言った。
「ううん、大丈夫。」
と私が返すと
「今日は遅いから明日、焼きそばを作るよ。」
とお父さんが約束してくれた。

何だか、その言葉だけで私は大丈夫な気がした。特に根拠はないけれど。辛いことがあってもお父さんの焼きそばがあれば、きっと私は乗り越えられる。お父さんがいてくれれば、私はきっと前を向ける。