次の日の夕方、奏多さんに会えるかと思って早めに呉服屋から帰宅したけど、もう奏多さんは帰っていた。

「今日は会えなかった……か」

ハァっとため息をついて、自分の部屋に入る。奏多さんに電話してみようかな。頭の中で話す事をまとめて、携帯を手に取った。

「はい、もしもし」

「奏多さん……えっと、私」

奏多さんの声を聞くと、緊張して頭の中が真っ白になってしまった。

「はは、桜さんどうしたん?」

何だかいつもと声が違う。もしかして……。

「風邪ですか?少し声が枯れてるみたいですけど」

「分かってもうた?なんかさっきから急に熱が上がってきたみたいで、怠いから今ベッドで横になってたところや」

時折コンコン咳き込みながら奏多さんは話をする。一人暮らしだけど大丈夫かな。

「大丈夫ですか?何か必要な物があったら買ってきますけど」

「大丈夫大丈夫、気にせんとって。寝てれば治るから」

軽快に話しているけど、多分怠さMAXだと思う。私は『お大事に』と一言言って早めに電話を切った。

「大丈夫かしら」

携帯を握りしめながら奏多さんを心配する。そして私はバックを持ち部屋を出た。

「あら桜、今から出かけるの?」

階段を降りると母に会った。心臓をバクバクさせながら私はバックをギュッと握る。

「う、うん。友達と会う約束してて。帰り少し遅くなるかも」

「そう、気をつけてね」

「じゃあ行ってきます」

思いっきり作り笑顔で私は外に出た。一人になってハァっと思いっきり吐き出す。友達と会うなんてもちろん嘘だ。

私は足早に奏多さんマンションへ向かった。