「まっ、待って下さい」

ようやく言葉が出てきた。急いで立ち上がり、奏多さんの後を追いかける。

そして、奏多さんを背中越しにギュッと抱きしめた。

「さ、桜さん?」

「ごめんなさい奏多さん。私……私、奏多さんの事が好きなんです。だから今は、蒼志との結婚も華月家の事も考える事が出来ません」

私の奏多さんを抱きしめる手は震えが止まらない。

でも、ようやく私の想いを伝える事が出来た。言ってはいけない想いだったけど、もうこの想いを私の中に閉じ込めておくのは無理だった。

「桜さん、手を離してもらっていいですか?」

静かな声で奏多さんにそう言われ、私はシュンとなりながらそっと奏多さんから手を離す。

すると奏多さんはクルッと振り向いて私の肩を抱き、顔を近づけて目線を合わせてきた。

「なぁ、今のもう一度言うて?」

私の肩を抱く奏多さんの手に力が入る。今のって、もしかして告白の事?だとしたら……私は振り回されっぱなしの奏多さんに少し意地悪をしたくなった。

「いえ、もう言いません。奏多さんだって一回しか言ってませんし」

そう言ってニッコリ微笑む。すると奏多さんはクスッと笑った。

「意外と意地悪やな。だったら何度でも言うたる……好きや。桜さんの事、大好きや」

「私も奏多さんの事、好きです」

私達は笑い合い、自然に唇を重ねた。