京都から帰った私は、またいつもの日常を過ごしていた。

ただひとつ違うのは、その日常に奏多さんがいないという事だけ。

「おい桜、何ボーッとしてんだよ」

仕事に集中してない私の頭を蒼志がコツンと軽くゲンコツしてきた。

「ごめん」

「お前、京都から帰ってから何か変だぞ。もしかして、京都で奏多さんと何かあったのか？」

「……何もないわよ」

私は蒼志から若干視線を逸らしつつ答える。まさか京都で奏多さんに抱きしめられたり、ましてはキスしたなんて口が裂けても言えない。

「本当かよ。まぁいい、仕事終わったら飲みに行くぞ。話聞いてやるから」

「えっ二人で？」

「なんだよ、俺と飲みに行くのが嫌なのか？」

「そうじゃないけど」

蒼志が私を誘うなんて珍しいなと思いながらも断る理由もないし、結局二人で飲みに行く事になった。

そして夜ーー

「やっぱり仕事終わりのビールは最高だな」

仕事終わりに立ち寄った馴染みの居酒屋で、蒼志はビールの入ったグラスを片手に勢いよく飲み始めた。

「珍しく二人で飲むんかい。あ〜さては付き合ってるとか？」

注文したビールを運んできた顔見知りの店員がニヤニヤしながら私達を見ている。

「さぁね」

蒼志は動揺することなく、店員にニヤニヤ返しをした。いやいや、そこはハッキリ付き合ってないって否定するところじゃないの？