「そういや桜のその格好、今日も見合いだったのか?」

蒼志は座ったまま私を見上げてニィッと笑う。私は上から目線で返事をした。

「だったら何?」

「その様子じゃ今回も駄目みたいだな。これで見合い失敗は20回突破だな」

「うるさいわね、まだ19回よ。じゃあ私は茶道体験教室の後片付けを手伝ってきます」

そう言って私は部屋を出て、茶道体験教室が行われた離れの茶室へと歩く。それにしても蒼志のやつ、少しくらい私の着物姿を褒めてくれてもいいのに。

口を開けば憎まれ口を叩く蒼志とは、会うとどうしても喧嘩腰になってしまう。学生時代からそうだ。

本当はもっと素直になりたいんだけど……

そんな事を考えているうちに離れに到着した。

「失礼します」

そっと障子を開けると中には抹茶色の(あわせ)着物を着た男性が正座している。私の姿を見ると、ニッコリと甘いフェイスで微笑み私を迎え入れた。

一ノ瀬 奏多(かなた)、華月流家元の内弟子で主に裏方で華月流を支えてくれている。最近では家元のGOサインももらって、時々華月家の離れにあるこの茶室で茶道体験教室も開いている。