「あの……話し方が気になるとかでは全然ないので」

私が慌てたような言い方をすると、分かっているよと言わんばかりに奏多さんは優しい表情で頭をポンポンした。

そしてまた沈黙のまま二人で歩く。でも手はしっかりと繋いでいた。

何か話をしなければ……

「あの、父に用事って言ってましたけど何かあったんですか?」

「さっきの電話、京都にいる知人からでして、父が緊急入院することになったのでしばらく京都に帰ろうかと思いまして」

話し方がまた敬語になった。関西弁のままでも良かったのに私、余計な事言っちゃったな。ちょっと落ち込んだ。

そして『マナ』さんは京都の知人か。どんな知人なのかは気になるけど追求出来なかった。それよりも奏多さん、淡々と話しているけど、入院って大丈夫なのかな。

「入院って、大変じゃないですか」

「いや、ただのギックリ腰なので大丈夫ですよ。少し派手にやってしまったみたいで数日だけ入院するそうです」

「それでも治るまでは大変ですね」

「それが問題で、明後日に京都で茶会があるから急遽父の代わりに茶会に参加する事になりました。多分一ヶ月くらいは京都に戻って父の代わりに家元代理を務める事になりそうです」

「一ヶ月ですか」

奏多さんにとってはたった一ヶ月かもしれないけど、私にとっては一ヶ月もという気持ちで切なくなった。