「本当に違うんです。蒼志への失恋は関係なくて、奏多さんがもうすぐ京都の実家に帰るって言うから……あの……」

何か言い訳してるみたい。奏多さんもキョトンとしている。もう少し頭の中で言葉をまとめてから言えば良かった。

「もしかして僕が京都に帰るのを寂しいと思ってくれるのですか?」

月明かりを背に私に話しかける奏多さんの表情は、薄暗くてハッキリと分からないけど……けど、何だかいつもと雰囲気が違い妖艶な雰囲気を醸し出している。

「寂しい……です」

誤魔化せるような空気ではないので、私も小さな声でついボソッと本音を出した。

「はは、やっぱり桜さんは可愛いな。このまんまキスしようかな」

えっキス!?

冗談だよね?

でも奏多さんの顔がゆっくりと私の顔へ近づいてくる。どうしよう。そして唇が重なり合うまであと数センチ……私は奏多さんを受け入れようと自然と目を(つむ)った。

「桜さん、意外と雰囲気に流されやすいんやな」

唇が重なり合う前に奏多さんが京都弁で囁いた。私は奏多さんの声にパッと目を開けて、至近距離の奏多さんとバッチリ目が合い顔を赤くさせる。