天啓のような直感で、ミゼルはヘンリーに運命を感じた。
 
 しかし、好きだと告げても、ヘンリーはのらりくらりとかわしてミゼルから逃げようとする。
 だから、怪我を引き合いに出した。
 これから父の手前、すげなく振られることはない。

「ヘンリー様、お答えください」

 返事を求めると、ヘンリーは嬉しそうに頬を染めながらも視線を泳がせた。
 煮え切らない態度は、じつに彼らしい。

「あーっと、考えとく。まずは記憶の方をなんとかしないといけないし……。結婚するなら、浮気性が静まってるこのままでいた方がミゼルちゃん的にはいいのかな。それなら、オレも無理して魔法を解かなくてもいいかなって思うんだけど」

「いいえ、記憶は取り戻さないといけません。マリアヴェーラ様のために!」

 熱を込めて答えると、ヘンリーは一転して不満そうに口を曲げた。

「オレより高嶺の花の方が好きなの?」
「もちろんです。私、マリアヴェーラ様をお支えするために生きているので」
「……それは、ちょっと嫌かも」

 ぼそっと聞こえたのは本音だろうか。
 そうだったらいいなと思いつつ、ミゼルは父に要求した。
 
「――というわけなので交際を認めてください、お父様」
「オレからもお願いします」

 娘の懸命な様子と、戸惑いつつも幸せそうな表情のヘンリーを交互に見て、父は折れた。

「わかった。だが、不純なお付き合いは許さないよ。あくまで、プロポーズを受けるかどうか決めるまでの仮交際なのだからね」
「「はい」」

 ミゼルとヘンリーは視線を合わせて微笑み合った。

 二人の関係が動くのは、ヘンリーがルビエ公国から帰ってきた後。
 レイノルドに少し遅れて記憶を取り戻したヘンリーが、ミゼルのプロポーズにどんな返事をしたかは、二人だけの秘密。

 〈了〉