突然の、そして大真面目なプロポーズに、ヘンリーは目をまん丸にした。
 驚きを隠せずに瞬いた後で、「あはは」と声を上げて笑い出す。

「結婚て、大げさだなぁ」
「大げさなものですか! 血もたくさん出ましたし、傷だって残るかもしれないんですよ?」
「令嬢じゃないんだからさ。オレ、女の子に言い寄られるのは慣れてるけど、プロポーズはさすがに初めてだよ」

 笑い過ぎて出た涙を指でぬぐったヘンリーは、じっと見上げるミゼルの瞳を見つめ返した。

「ミゼルちゃんの純粋なところ、嫌いじゃないよ。でもさ、オレは一人の女の子のところに留まっていられないと思うんだよね。今は記憶がぼんやりしているせいか夜遊びしたい気分じゃないけど、そのうち遊び歩くかもしれないし」
「平気です。ヘンリー様がどこにいてもわかるように情報網を構築しておきますから」

 飲み屋でも貴族の屋敷でも、ヘンリーの行く先々に味方を作っておけばいい。
 祖母がやっているのだ。ミゼルにだってできないわけがない。

「都中を監視するってこと? 本気で言ってる??」
「ヘンリー様を逃さないためなら、本気でやります」

 自信満々のミゼルに、ヘンリーは今度はお腹を押さえて笑った。

「熱烈だなぁ。そんなにオレが好きなの?」
「わかりません……。でも、これからも一緒にいたいと思うんです」

 マリアが教えてくれた本物の恋を、ヘンリーとできるかどうかはわからない。
 ただ、彼と出会ってわかったことがある。

 自分の理想の恋は、何も奪われずに与えあうだけでなく、お互いのびのびと生きていられる姿だと。

 ヘンリーは遊び人だ。
 悪いことも酷いこともそれなりにしてきたし、これからもするかもしれない。

(だけど、私に必要なのは彼だわ)