突然、会場に飛び込んできた白金色の猫に招待客はざわついた。
 続いて、赤い蝶ネクタイを締めた男の子が追いかけていく。

「走っちゃだめだよ、ニア!」

 楽しそうなニアと慌てるミオを見て、マリアはレイノルドと視線を合わせて微笑んだ。
 リングボーイを二人に頼んだのだ。
 赤いリボンをかけた宝石箱をくわえたニアは、レイノルドの前でお座りする。

「にゃーご」
「持ってきてくれてありがとな」

 レイノルドがしゃがんで手を出すと、ニアはその上に宝石箱をのせた。
 やっと追いついたミオは、膝に手を当てて息を切らす。

「ごめんなさい、マリアヴェーラ様。ニアがはりきっちゃって……」
「式を楽しんでもらえて嬉しいわ」

 色白のミオとニアを、タスティリヤの貴族たちは物珍しそうに見つめている。
 彼らが魔法使いだということは公然の事実だ。

 ルビエ公国で事故にあい、生死の境をさまよったレイノルドを助けた恩人ということになっていて、宮殿に一部屋もらって平和に暮らしていた。
 魔法が禁じられた国なので馴染めるか心配していたが、二人ともすぐに順応して王妃に可愛がられている。

 レイノルドが宝石箱を開ける。
 現れた二つの指輪には、タスティリヤの国名とそれぞれの名前が彫られていた。

 王族の結婚は、夫婦を結ぶと同時に国への忠誠を誓うものなのだ。

「マリア、手を」
「はい」

 左手を差し出す。
 レイノルドは、マリアの細い指に慎重に指輪を通していく。

 金属の冷たい感触と、彼の熱。
 真逆の温度が、マリアの心の柔らかな部分をノックする。

 第二関節の奥に差し込まれると、肌にぴったり吸い付く感触がした。

(もう二度と外さないわ)