「マリアヴェーラ殿、こいつの手当てをしてやる必要はないぞ。魔法使いは我ら貴族に従属するのが定めなのだ」

「ルビエ公国ではそうかもしれませんが、わたくしが生まれ育ったタスティリヤ王国では違います。王侯貴族と民とは持ちつ持たれつの関係なのです。目の前で傷ついた人がいたら、魔法使いだろうと助けるに決まっています」

 毅然と立ち上がったマリアに、魔法使いたちは心を奪われた。
 自分を人間だと断言してくれた、世にも美しい貴族令嬢に見とれ、呼吸さえ忘れている。
 手当てされた若者も感極まった表情で、マリアのスカートを引いた。

「名前を教えてくださいませんか?」
「わたくしはマリアヴェーラ・ジステッド。タスティリヤ王国から使者としてまいりました。みなさんもいつかお越しになって。温かくて平和で、とてもいいところなんですのよ」

 タスティリヤのマリアヴェーラ様。

 魔法使いたちは心に刻むようにマリアの名前を呟いた。
 ガラス管に送られる魔力が途切れたので、ジーンが鞭を振るう。

「馬鹿どもめ。誰が止めていいと言った!」

 パン、パン。
 鞭打たれた魔法使いは、一人また一人と役目に戻る。

 若者もマリアに一礼して仕事に戻っていった。

(こんなの間違っているわ)

 今なら、魔法使いを解放するためにルビエに戻ってきたルクレツィアの気持ちがわかる。

 魔法使いから生まれ、魔法使いに恋をした彼女にとって、彼らへのひどい仕打ちはこたえただろう。
 魔法が使えるかどうか、それだけの違いで、人の形をした道具だと線を引くことがどれだけ残酷なことか、彼女は自分の境遇からも感じていた。

(魔法使いの娘で、公女である自分しか彼らを解放できないと、思い詰めても無理はないわ)

 ずきっと胸に痛みが走った。
 視線を下ろすと、ニアがマリアの胸元にぎりぎりと爪を立てている。

「絶対に助けますわ。少しだけ耐えていてください」