「裸眼だと目を痛める。これをつけるがいい」

 手渡されたゴーグルで顔を覆う。
 まぶしさの元は、鏡の間の中央に立てられた巨大なガラス管だった。
 その中央では、大きな青い火の玉がさんさんと輝いている。

「あれは何ですか?」
「人工太陽の試作品だ。ルビエの真冬の日照時間の少なさを解消するため、魔法で作らせている最中なのだ。この十倍の大きさにして都の空に浮かべ、雪を溶かして生活しやすくする」

 魔法で天候や気候は操れないが、火の球であれば出現させられるので、巨大化して太陽の代わりにするらしい。
 マリアには夢物語のように感じられるが、魔法がある国では途方もない話ではないのだ。

 ジーンは、大公一族で唯一の魔法の研究者だという。

「それは、素晴らしい計画ですが……」

 胸元にいるニアのうなりがすごい。
 オッドアイが見つめる先には、ボロボロとのマントをつけた人々がいて、ガラス管に向けて手を伸ばしていた。

 男性も女性も頬がこけてやつれていて、炎を見つめる目から涙を流している。
 こんなことやりたくないと、声にならない悲鳴を上げていた。

「彼らは魔法使いですか?」

「魔法使いという名ももったいない。あれらは、大公に与えられた仕事に失敗した者たちだ。城を叩き出されて野垂れ死ぬしかないところを、私が拾って使ってやっている。これだけの火を生み出せば、精根尽きはてて死ぬから命運は変わらないがな。最後まで大公の魔法使いでいられることを感謝するべきだ」

 まるで自分が崇高な行いをしているように胸を張るジーンに、ニアは荒い息を吐いた。
 今にも飛びかかって引っかきそうだ。

 マリアはもがく体をぎゅっと抱きしめた。

(これが、この国での魔法扱いの扱いなんだわ)