そして、それはダグラスが留学中に起きた可能性が高い。
 留学期間は一年だったが、彼は二カ月も早く帰郷したのだ。堅物の父もそれを咎めることはなかった。やむにやまれぬ理由があったとしか思えない。

 その後、ダグラスはルーイに手紙を送り続けた。
 タスティリヤからルビエ公国までは遠い。手紙が届くのは約二か月後。途中で紛失することも多く、返事はまちまちだったが兄は書き続けた。

 そして、結婚を機にぱったり止めた。
 二人の間柄は、単なる親友で片づけられるものではないとマリアはにらんでいる。

 だが、それを真正面から尋ねるのでは芸がない。
 マリアは女性らしい好奇心を前面に出して、若干上目遣いでルーイに問いかける。

「とても楽しい学生時代だったのですね。ひょっとして恋人もいたりなさいましたの?」
「ああ……。ダグラスは国に婚約者がいると頑なだったけれど、私は同じ大学にいたよ」

「学生恋愛だったんですね。とても素敵だわ。その方とはご結婚されないのですか?」
「実は、卒業前に別れてしまったんだ。その……別の人を好きになったと言われて」
「まあ」

 思わぬ恋のいたずらに、マリアは口元に手を当てて驚いた。
 ルーイは情けなさそうに頭をかいて自嘲する。

「もう終わった話だから打ち明けてもいいかな……。実は、彼女が好きになった相手がダグラスだったんだ。彼は頭脳明晰で、レディファーストが体に染みこんでいる完璧な紳士だ。大学中の女性がダグラスに憧れていたんだよ」

「そのせいで、お兄様は留学を切り上げて帰ってこられたのですね」

 図らずも親友の恋を壊してしまった。
 ルーイがいくら気にしないと言ってくれても、ダグラスが平気でいられるはずがない。

 マリアが表情を曇らせたのを見て、ルーイは慌てて両手を振った。

「いいんだ。ダグラスは国に帰ってから何度も謝罪の手紙をくれたし、それから恋をしないのは私の意思なんだから。大公にはいつ結婚するんだと心配されているけれど、どうもそんな気になれなくてね。剣や舞や料理に打ち込んでいるよ」

 ぽろっと明かされた彼の本音。マリアが見逃すはずもない。