マリアとレイノルドが婚約関係にあると聞き、ジーンは白皙の顔をしかめた。

「ルクレが連れてきた王子じゃないか。あいつは婚約者がいる男を結婚相手として連れてきたのか!」
「怒らないで、ジーン。ルクレが突拍子もないのは今に始まったことじゃないよ」

 清潔感ある短髪をかき上げて、ルーイは大公を振り返った。
 首にかけた青琥珀のネックレスがシャランと揺れる。

「我が友ダグラスが使者となり、タスティリヤ王妃からの書状を運んできました。大公、お受け取りになりますか?」
「しかと受け取ろう」

 ルーイはダグラスから密書を受け取って、壇上へ運んだ。
 書状を開いた大公は、しげしげと読みながら白いひげを撫でる。

「我が息子レイノルドはタスティリヤの次期国王となる王子。必ず国に返してくださるようにお願い申し上げます、と書かれているな」

「大公閣下、恐れながら申し上げます」

 ダグラスは真剣だ。
 ここで大公を説得できるかどうかに、タスティリヤの未来がかかっている。

「レイノルド王子はタスティリヤ王国の宝です。ルクレツィア公女殿下とご結婚されてルビエ公国に留まられれば、小国のタスティリヤは大打撃を受けます」

「それが、何だね?」
「何、ですか……」

 あ然とするダグラスに、大公は大国の主上らしい狡猾な牙をむく。

「ダグラス殿は子どもはいるかね?」
「息子と娘が一人ずつおります」

「そうかそうか。では儂の気持ちもわかってもらえるに違いない。外国に出ていって心配していた末娘が、結婚相手を連れて戻ってきてどれだけ安心したか。はっきり言って、小国が愚王を立てて滅ぼうとルビエ公国は少しも困らん。それよりも、娘が好きな相手と結ばれて幸せに暮らしてくれれば、その方がいいと思わんかね」

「それは、そうですが」

 口ごもる兄の脇を、マリアは肘で小突いた。

(お兄様、ここは丸め込まれていい場面ではありませんわ!)