マリアは後を追った。
 スカートをたくし上げて長い廊下を走り、階段を駆け上がる。

 途中の部屋や窓から他の猫たちも合流してきて、猫の数はどんどん増えていく。

(こんなにたくさんいたのね!)

 猫の一団は二階の廊下をまっすぐ進み、突き当たりの蝶番がついた扉に飛びついた。
 一匹、二匹と猫が折り重なり、重量に耐えられなくなった扉が内側に開いた。

 部屋に雪崩れ込んだ猫たちは、いっせいに『みぎゃあああ!』と大絶叫した。

「出ていけ! 呪うぞ!」

 猫たちの視線の先には一人の少年がいた。
 痩せた体にフード付きのローブを着て、髪を振り乱しながら、窓に向かって必死に十字を切っている。

 窓ガラスにくっついているのは季節外れの芋虫だった。
 屋敷の中は温かいので、春と勘違いして卵がかえってしまったのだろう。

 猫たちは、少年と連動でもしているかのように、みぎゃあみぎゃあと悲鳴をあげている。

(芋虫が苦手なのかしら)

 部屋を見回したマリアは、立てかけてあった箒を掴んで、少年の前に出た。

「離れていてくださいな」
「あなたは……」

 箒の穂先で、芋虫をちょんちょんとつつく。
 ぐらっと落ちて穂に乗ってくれたので、窓を開けて外にほいっと放り出した。

「これでいいかしら?」

 振り返ると、少年と猫たちはあんぐりと口を開けていた。
 真正面から見た顔立ちに、マリアは思わず息をのむ。

(とても綺麗な子だわ)

 こんもりと盛り上がった頬や、カラスの羽根を思わせる黒髪は人形のようだが、青と黄色のオッドアイは気位の高い猫に似ている。

「あ、あなたは、ループレヒトが呼んだ……」

 おびえた顔で後ずさる少年に、マリアは箒を掴むのとは逆の手でスカートをつまんだ。

「はじめまして、わたくしはマリアヴェーラ・ジステッドと申します。兄が留学中にお世話になったご縁で、しばらく滞在させていただきますわ。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「……ミオ」